クリームとチョコ増し増しでと頼んだせいで、銀時の前にあるパフェの器はえらいことになっていた。どうしてそれでこぼしもせずにきれいに食べられるものか土方は心底ふしぎでしょうがない。というか、パフェなんぞをどうしてこんなうまそうに食べられるものか(もう二杯目だ)、そこからして疑問だ。やっぱりこいつと上手くやってける気しねー、幸せそうな銀時のむかいで、土方はそんな物騒なことを考える。

パフェは土方のおごりだった。というか、最近は割とそうだが。賭にもならない賭をしてまんまとおごらされている。何についてかは言いたくもないが、待ち合わせにどっちが遅れてくるかというやつだった。土方はこれで四度連続の遅刻をしていて、次こそは遅れねえと言ったが見事に銀時に待ちぼうけを食わせた。そのわびがこのパフェなのだった。
「うめー、人の金で食ってると思うと更にうめー」
「……そうかよ」
銀時はひどく幸せそうだ。溶けたアイスクリームとチョコレートソースが混じって、スプーンの中はえらいことになっている。昔つきあった女がパフェは最初こそきれいでかわいいけど、だんだんぐちゃぐちゃになっちゃうから絶対デートじゃ食べないの、なんてことを言っていたように思うが、そんな遠慮ヤロー同士なんだし不要でしょ、と変なところできれいに割り切っているのが銀時だった。このあとクリームあんみつも来ることになっている。腹壊したりしねーのかと人ごとながらちょっと心配になるが、売り言葉に買い言葉で乗ってしまった賭けに、しかもまんまと負けていらいらしていた土方は無言のままコーヒーをすすった。とっとと食っちまえこの野郎、別段このあと用事があるわけでもないのだがいらいらに任せてそんなことを考える。しかもこのファミレスは全席禁煙だ。
もぐもぐ、とバナナの色をしたアイスを添えられたクッキーですくって食べながら銀時が言った。「甘いもんの国に住みてえなあ」
朝飯がだんご、クレープが昼飯で、夕飯がパフェでおやつがケーキ、
夢見がちな調子で続けられる言葉に土方の腕に鳥肌が立つ。なんだそれ。ものすごく嫌だ。
「なんかぽろっと行けたりしねえかなあ」
などと銀時はちょっと空を見ながらまだ言っている。え、きもい。土方が思わずぽろっと言ったら、変にこんな時だけきらめく赤い目がこっちを見た。輝くとこ間違ってんじゃねーのと思うが、突っ込みがなんていうかもう追いつかない。
「んだよ、おまえだってマヨネーズの国とかありゃ、住みてえなって思うだろが」
「永住権取るな」
たばこが持ち込み可なら、と付け加えつつ、残り一口だったコーヒーを飲み干し、「マヨの方がよっぽどきめえよ」などとほざいた銀時の前に置いてあって手つかずだった緑茶をあおる。最初に頼んだ抹茶パフェについてきたものだったので、もう半ばぬるくなっていた。あっ、と銀時は声をあげるが、どうせこのあとあんみつにもお茶が付いてくる。七夕フェアだとか言って、和風のデザートにはお茶がついてくるのだ。暫く互いの行きたい国について少々物騒な議論を(ついでに店員が飛んでくるくらいのボリュームで)したあと、ちゃっかりパフェを完食していた銀時がペーパーナプキンで口をぬぐってから、言った。
「あれだな。もう俺ら、別々に住んで彦星と織り姫スタイルでいくしかねえな。年に一回くらい会う方向で」
「それ今とかわんねえだろ」
お待たせしましたァ〜、とソフトクリームをまた増強したあんみつがいいタイミングで運ばれてきた。


「あーまじ、うまかった。土方くんどうもありがとう! またよろしく★」
「……そりゃ、俺に遅刻してこいっつってんのか、また」
「そうじゃねえけど」 冗談の通じねえやろうだなあ、なんて銀時が頭を掻いている。ちっと土方は舌打ちをして、たばこに火を付けた。というか、「また」なんて言っているが銀時の甘味巡業はまだ始まったばかりで、あと二軒いきたいとこがあんだよねえとは最初から言われている。今は移動中だ。一瞬立ち止まった土方につきあって脚をとめた銀時がふと顔をあげて「あ」と声を出す。
「? ンだよ」
「いや、焼きドーナツだって、土方くん。うまそうじゃね?」
「……いや?」
ぜんぜん。そう答えてぽかっと土方はたばこの煙を吐いた。意図せず輪っかの形になった。そういえば前に総悟にやってみせろおまえならできるはずだとかなんとか言われて練習させられたことがあったっけ、
輪っかをみた銀時が「あ、やっぱドーナツ食いてえかもお」などとわざとらしい調子で言うので、土方は吸いきってしまったたばこをぎしぎしと携帯灰皿にねじ込み、次のに火を付けてまたぷかっと煙を吐いて、言った。
ドーナツ型。
「遠慮しねえで食えよ、俺謹製だぜ、銀時」


20120707
これも七夕の時書いた