銀さんにょたなのでご注意くだされ

















生まれ変わったら女子でした、訂正、生まれ変わる前は、男でした?
どっちが正しいのかはわかんねーけど、とりあえず、前の俺は男で、今の俺は女子です。名前を坂田銀時といいます、よろしくね☆
自己紹介は高校一年、クラスで最初の自己紹介の時に順に立って名前とあとひとこと、って言われた時に精一杯かわいい顔でいったのと同じだ。おんなのこなのに、銀時。甘いものが好きでーす、そう言ったらなんかクラスの女子みんながあたしもー、みたいな反応をした。うん、やっぱ糖分は世界を救うよな。だって今ここで、高校生活のスタートを切ったばかりのクラスの緊張を和らげた俺、救世主みたいじゃん。少なくともこのクラスの緊張緩和には貢献して、もしかしたらストレスをため込んでしまうかもしれない誰かのことを救ったかも、しれないわけだし!
よろしくねえー、とどうでもいい感じで付け足して座るまぎわ、ぱらぱらと起きる拍手ごしに、俺はそっと廊下側の席にほおづえをついて座っている、黒髪の男の子を、見た。アイツの大本命っていうか俺の大本命はあのこです! てクラス中に言って回りたいどころか世界の中心でそう叫びたいけど、残念ながら後ろに座った坂本のばかが自己紹介を始めたから、俺は黙ってこっそり土方くんの方を見るしかなかった。つーか何だこのクラス、前世もち(この言い方もどうか)ばっかじゃん。今気づいたけど。



入学式の話だ。俺は出席番号十七番って書かれた席に向かって突進していた。その時に、
「近藤さん、うわぐつ」
これに入れろよ、と言って、自分の持ってきたらしいビニール袋をゴリラに向けて(わあ、今の日本はゴリラにも高等教育受けさせんのか、すげえ)開けてあげてて、おーありがとトシ、なんてそのゴリラが答えて、
「あっ」
俺の世界がぱちんとそこではじけたのだった。赤い実はじけたって教科書に載っててそれ見た時はフーンって思ったけど、まじであんな感じだった。ついでに前世の記憶とか呼ぶと恥ずかしくて顔を覆いたくなるけど、とりあえずまさにそのものはドドメ色した実も一緒にはじけちゃった。ひじかた、 その名前を舌の上で転がす、俺の声がまるで他人のものみたい。でも実際生まれ変わって性別が変わっちゃったなんてまじで、今の俺とあの当時の俺ほんとに別人だってことなんだけど。
昔の気持ちを思い出したのか、それとも今の俺がそうなのかは正直なとこ、ごっちゃになっちゃってよくわからない。とりあえず俺は土方を見た瞬間どうしようもなく胸がときめいて、体から力が抜けて、思わず冷たい体育館の床に膝を突いてしまった。大丈夫か、ってゴリラが気にしてくれて出席番号三十五番だった土方も気遣わしげにこっちを見たけど、でも俺の中に落ちてきた雷みたいな衝撃は、彼には走ってないみたいだった──じゃあやっぱり、前の俺の気持ちなのかな。わかんねーけど。

土方のことを好きだった。訂正、好きだ。過去形じゃない、もし前の俺を「過去」って言うなら過去形で正しいけど、それはともかく。あの、男だった時から、好きでした。ついでに言えばもしかしてこれ脈有りなんじゃねって思って告白したこともある。酔った勢いで言ったのが悪かったのか、最初は「は?」で流された。もっかい、って思って「土方、俺、オメーのことが好きだ」って一週間ののちにもっかい、今度は素面で言ったら、今度はもっと反応がひどかった。
「え、……」
何そのどん引きしてる顔。今でもあの青ざめた表情は忘れられない。きれいな形の眉がきゅっと寄って顔が曇って、半開きになったくちびるが少しのとまどいと共にわなないて、それから、
「わりーけど、俺は好きじゃねえ」
つーかホモじゃねえ、みたいな言葉がその裏っかわに見えてた気がして、まじかよおおおお! と思ったけど昔の俺はなんも言えず、ただその場に立ちつくしていた。つまりものすごい勢いで玉砕したわけ。ちくしょー今思い出してもちょっと泣ける。前の俺、頑張れ。男は土方だけじゃねえ、って俺もホモだったわけじゃなくて土方のことをうっかり好きになっちまっただけだけど! ここテストに出ますからね、すげー大事なとこだから!


そんな感じで過去の俺はかわいそうな振られ方をしちゃったわけだけども、何せ今の俺は(ジャジャーン、て効果音つき!)おんなのこだ! 女子だ! 土方は男だからダメって言った、でも今回は、そうじゃない。土方の恋愛対象になれる。俺は土方が好きで、土方はどーか知らないけど少なくとも好きにはなってもらえる可能性があるわけだ。やったね!
「土方くん、好きです」
善は急げで大あわてで告白しても良かったけど、入学してから半年、俺は土方が記憶とか戻ったりしねーかなってちょっと期待して待ってみたりした。でもやっぱりだめだったので、誕生日をふつか過ぎた、今日。礼儀正しく体育館裏まで引っ張っていって、告白した。当日にすりゃよかったじゃんって俺も思うつーかそのつもりだったんだけど、土方くんがなんか風邪引いたとかで休んでたんだ。
ここまできたらもじもじももだもだもナシだ。今はそんなの全部まだるっこしい。今すぐ、俺の気持ちを伝えたかった。一秒でも早く。
「でも俺、さかたのこと全然知らねーし」
ちょっと俺の方が背が低いから、土方に少し見下ろされるような形になる。なんかその視線もイイネ、なんて思いながらそう言われるのなんて百も承知だったから、俺は大丈夫、とすぐさま答えた。「ちょっとずつ、知って貰えたらいいから」
あたし土方くんのことずっと見てたんだよ、ってまんざら嘘でもないことを言った。今の土方のことは知らないけど、でもずっとずっと前から好きなのはほんとだ。昔の俺と今の俺にかけてほんとだ。土方のことだけが、
「いや、…うん」
「ね、お友だちから、始めよ?」
「……あー、」
がしがしと頭を掻いて、すごく言いにくそうに口ごもったあと、土方は昔と寸分変わらぬ長いまつげの下から、きれいなきれいな墨色の黒い目で俺のことをひたと見つめた。その目のふちが光に透けると淡く青色に輝くのが、好きだった、うすいきれいなくちびるにたばこをいつもくわえて不機嫌そうに眉を寄せていた顔も、何もかもが変わってなくて、かっこよくて美人だ。この世のすべての「うつくしさ」ってものを詰め込んでぎゅぎゅっと固めたら、きっと土方になる。そんな気がする。俺は恋に濁った目でそんなとんちきなことを考える。
「悪ィんだけど、それもむりだ」
「なんでよ」
思わずぎゅっと顔をしかめてしまった。くそ、ここまではかわいらしく愛らしくこれてたのに。声も低くなる。女子にしては声低いよねって言われて合唱祭じゃいつもアルト担当だった。歌いにくいのに。
「……俺、」 言いにくそうな間。ほぼ初対面の女子にどこまで言って良いのかな、みたいな顔。もしかして彼女いたりすんの。いいよ銀さんめげない。むしろ略奪愛でも全然燃えるし。
「あー、おんな、無理なんだ」

さんざん迷ったあと、きれいなきれいな土方くんは苦笑しながらそう言った。えっ。俺の喉から出た声は思いっきり濁点がついててものすごい音になってたけど、それにかまう暇もない。えっ。相手誰。彼氏とかいちゃったりすんのもしかしてあのゴゴゴゴゴゴゴゴリラとか、
「いや、いねーけど」
でも好きなやつはいる、と言ってほんのり笑った土方の顔はかわいかった、本当に、かわいかった。やっぱりこの世のきれいを以下略、そんな顔で笑って、土方は言った。
「名前とか知んねーんだけど。昔っから夢に出てくるやつがいて」 そいつにずっと片思いしてる、
それから土方は夢見るようにもう一度笑って、「髪だけ似てる、坂田に」と小さな声で言った。



それ俺なんですけど

20121010