雨がじっとりと降り始めたと思ったら、あっという間に本降りになった。オメーもしかして雨男。そう訊くとたばこを濡らしてしまったらしい土方がぎっとにらみ付けてくる。銀時も土方もそろって前髪を濡らしている──いや、それだけじゃないが。
多分二週間ぶりとか、久しぶりに会って、どーよ飯でも今度って誘いをかけようとしたらこのざまだ。昼に出かけた時は秋晴れって天気だったくせによ、パチンコで珍しく当てて確変確変で十箱積んだところで出てきたので、どうせならパフェでも食いに行って、新八と神楽にもケーキ買ってくかあーでもあいつら今日はお妙んとこ行くんだったか? なんて思っていたやさきに、四つ角を左に折れてすぐ、上から下まで真っ黒の彼を見つけた。
「あ」
すぐ近くに住んでいるくせに、しばらく会ってなかった。というかそれよりももっと互いに「会いたい」って思ってしかるべき関係であるはずなのに、っていう方が正しいのか。見つけたとたん思わず声が漏れて、ついでになぜか胸がきゅんっとしてしまった。なんでだ、思わず銀時は胸元を押さえる。天使の矢でも刺さってんじゃね、って思ったけど、何も刺さってなかった。当たり前だ。むしろ刺さったのは雨のしずくだけだった。ふわふわした銀時の頭に次々ぷすぷすと当たって、ボリュームを一時的に半減させただけだった。
「仕事」
「ああ」
土方は制服すがただった。たばこに火を付ける彼の左手の人差し指になぜか小さく切り傷がある。かち、とマヨネーズの形をしたライターとたばこの先をくっつけて、手をかざして雨のしたたり落ちてくる軒下の湿気からそれをかばっている。まもなく火が付いて、土方の口元からふわっと煙が立ち上って、すぐにとけ込んで消えていった。すう、と上を向いた時にのびた顎のラインがいつも通り色男、ついでに雨に濡れた前髪をちょっとかきあげてなどみたせいできれいな形をした額が少しだけあらわになっている。いつもは、分厚い前髪でじっくりと秘されたその肌の白さにあぜんとする──もう何回も、見たくせに。
「何時まで?」
「……もうすぐ」
「もうすぐって? あと五分とか、」
「もうすぐだ」
そう言ってたばこの煙を雨の中に吐き出す土方の手を、銀時は捕まえようか迷ってやめる。多分こんなタイミングで触れるべきじゃなかった──ましてやずっと、さわりたくてたまらない彼なら。
「飲みいかね?」
「……雨が止んだらな」
それまでは、もうちょっとこうしてろ。 まるでそう言うみたいに一瞬だけ目を合わせてくる土方の耳が、少しだけ赤いような気がする。ぽた、と狭い軒下で雨を避けるために寄せた体が近い──土方のにおいがするほど近い。肩が触れあう距離だ。互いの息がわかる。
顔を寄せたくなったけど、やっぱり我慢した。もっとちゃんと触りたかったし、そのことを許してほしかった。じゃあ俺んち来る? 雨音に負けそうな音だったが、近さの方がそれに勝った。土方はほんのりと色づいても見える目元でまたちらりと銀時の方を見て、「雨が止んだら」とまた繰り返した。

20121010
昨日書いたやつの銀さんバージョンのようなそうでないような