口を合わせてちょっとしたくらいで、土方が何かに気づいたみたいに声を漏らした。長いこと続けている間に鼻声が漏れてしまうのはいつものことだったが──認めたくはない──、今のは違う。なんだかマヨネーズの味がしたからだ。一歩引いた土方を見、銀時は怪訝そうな顔をした。どうしたの、口に出して訊かれて、そのうえ彼のくちびるがぺたりと濡れているのになんだかすごくいたたまれなくなる。まだ序盤で、キスだって舌をつかう前のタイミングだったわけだが。
「……いや、食ってねー、けど」
マヨネーズの味がしたと口を押さえながら正直に言った土方に、銀時はえっまさかとうとう味覚障害、みたいな顔をした。ちげーよ、でも唾がマヨの味とか悪くねー気がするけど、
「でも俺味しねーよ?」
そう言いながら銀時の手が仕切り直し、とても言うみたいに伸びてきて、帯をほどく前にあわせをゆるめて手を突っ込んできた。ひた、と触れてくる手がうすく浮かんだ肋骨のラインをなぞってくる。そのこそばゆさにまた鼻声が漏れたが、でもそれだけだった。いつもならひくりと肩が震えさせて銀時を喜ばせてしまうところなのに──いや、決して土方はそうしたくてしているわけじゃないのだが。


立ったまま抱き合っていたのが気恥ずかしくて、促されるままソファに移動する。向かい合って腰掛けるような体勢で触れたままだった胸元から、指先がそのまま横にスライドしてきた。銀時の手のひらが知り尽くしているはずの乳首をわざとらしく探すように動いて、見つけたそれを指と指の間にはさんでいじってくる。が、それだけだった。
「…あれ?」
先に疑問を口に出したのは銀時だった。いじられている乳首とは逆の側を、ちゅっと吸われても無反応な土方にふしぎそうな顔をしている。ん? 土方も首をかしげる。
「あれ?」
「あれ、ってなんだよ」
「いや、…乳首、耐性できた?」
そう言いながら指の間でこねくり回していた左側をきゅっとつまんで引っ張ってくる。いて、と眉を寄せはしたが、土方はそれだけだった。もう一回。いて。終わりだ。
「え、え? だっていつもならもうアンアン言ってるタイミング、いって! 顔殴んなっつーの!」
「ふざけんな、いつ誰がアンアン言ったってんだ!」
「え、いつものひじ…あっすみません嘘です調子のりました、」
ぎっとにらみ付けてまた拳を作ると、銀時は慌てて謝った上、胸元にくっつけていた顔をやっと外した。乳首の脇でしゃべられてこそばゆかったから少しだけほっとする。
「…テメーがへたくそになったんじゃねーのか」

確かに、認めたくはないがいつもならば胸をいじられただけでもう息が上がって、腰が震えてしまっているのは事実だった。ずっと前からこうだったわけじゃなくて、土方としては銀時のせいでこうなってしまったのだと言いたいのだが──でもそう言うと銀時を逆に喜ばせることになるんだろうから絶対にいわない──。
「は!? 何言っちゃってんの土方くん、こんだけ感度よくなったのだって銀さんのおかげなんだからねいていて、髪むしれるからやめてまじハゲちゃう」
「テメーのせい、だろ。でも実際何も感じねーぞ今」
ふざけたことを言う銀髪をぐいぐいと引っ張ると、頭を横にひっぱられながら銀時はまた懲りずに乳首をいじってきた。さっき舐められていた側を今度は引っ張ってくる。いつもと、確かに同じだ。覚えてしまっている銀時の手管、いつもそうやっていじくり回されるだけで息を荒げてしまう土方を揶揄して、乳首いじられるの好きじゃんなどと言うが、昔からそうだったわけじゃない。こうして銀時と寝るようになってから覚えてしまっただけの話で、だから何言わせんだコノヤロー。
「くっそ、ぜってーアンアン言わせてやる」
そう言うなり土方がまだつかんでいた手を外させて、がばっとソファに押し倒してきた。ゆるんでいた襟元を更に大きく開かせて、あごの付け根を軽く吸われる。銀時のふわふわした銀髪がこそばゆい、ついでに愛撫もだ。ちゅ、ちゅっ、とことさら音を立てているくちびるに不安になって「痕残すなよ」と釘を刺すと、「わかってる」ともぐもぐ言われて、ついでに肌を噛まれた。…だめないぬでも飼ってるみてー。あちこちなで回されて吸われて舐められてくすぐってーし、くっつかれてるからあったけーし。寝そう、やべえ。
「ちょっ、ひじかたテメーコノヤロー! 寝るか?! 銀さんこんな頑張ってんのに!」
「んん、…ねみい」
「くっそ……」
これでどうだ、とばかりぎゅっと着流しの上から股間を鷲づかみにされた。あ、土方の喉から声が思わず漏れる。「えっ、こっちは感じ、」
「いや、ラーメンの味した」
なんでだよ、と銀時ががっくりと肩を落として、べたりと上に寝っ転がって体重をのせてくる。「なんだよー…俺ずっと会えてなかったしこないだ通販とかしちゃったのに」
何を、とはさすがに言わなかった。土方が怒ると思ったからだろう。まあ、当たっていなくはない。一週間に少し足りないぐらい前に銀時は誕生日で、もうこの年になったらねえ、と言いつつも土方が「五日後になっちまうが」と非番を作ったことを言ったら喜んでいたのだが──多分それで張り切ったんだろう、どうでもいいことばっかり張り切りやがって、と土方としてはそのふわふわした髪を全部砂漠みてーに刈り取ってやろうかって思うぐらいなのだが。
「…いいぜ、使っても」どうせ感じねえし。 

つきあってからこっち、そういうものを使うことを一度たりとも許していなかった。銀時はどうなのか知らないが土方は男と寝るのが初めてで、正真正銘の初心者マークだったから、自分で意識することすら滅多にないようなそんな場所に、何か入れられるのは未だに苦手な気持ちが抜けきれない。もちろん、銀時のものを入れられるのだって、認めるのはいやだが少しこわい。いつか破れるんじゃねーかとか、どうしてかそこでよくなってしまうのも事実なのだが。
「まじで」
「男に二言はねえ」
銀時が自分のことを大事にしてくれているのは知っている、こうしてセックスをする時も、いつも優しかったし手つきは丁寧だった。乱暴なことをされることもあったし恥ずかしいことを言わされることもなかったとは言わないが、土方がどうしてもだめな苦手のラインを見極めて、その線からこっちには入り込まずにいてくれた。何を銀時が持ち出してくるのかは知らないが、玩具なんぞ使われてどうにかなってしまうのは間違いなくて、自分でもコントロールの出来ない何かに、銀時でもない「なにか」のせいでなるのはいやだった。でも、そういうものを使ったマニアックなセックスをしたいという銀時の希望に気づいていないわけじゃなかったし、土方の体を好き勝手にいじくりまわしたいと銀時が思っているらしいのも知っていた。気づいてない、わけじゃなかった。気づいてない、解りませんみたいな顔をしてはいたけど。
「テメーの好きにしろよ」





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20121010
つづくます