さんざん迷った銀時が出してきたのはえらく毒々しい色をした半透明の張り型と、あとは小さなピンクローターだった。根本に吸盤がついてるようなのとかぼこぼこと大小の玉が連なったようなのだの、ごろごろ紙袋から出てきて土方を唖然とさせたのはまあ余談として、銀時の好きそうな甘ったるいローションをぶっかけられてぬちゃぬちゃになったそこに、まずは指が入ってくる。一本目が人差し指、次が中指で、そこでぱくりと指を開かれて、中を確認するようにしてから薬指が入ってくる。いつもの手順。そんなところを開かれる気持ち悪さに腹がひくひくと動いたが、いつもは身もだえてしまうほどの気持ちよさも孕んでいるのでがまんできるそれが、今日は「それ」だけなのでひどく座りがわるい。大丈夫、と声をかけられて肯く。痛みもないし、ただそこをいじられているという感覚だけがあるだけだった。しかけてくる相手が銀時でなければ蹴飛ばして逃げてしまうような不愉快さだったが、我慢してこうしているっていう意味を銀時はわかってるんだろうか──絶対に解ってないだろうな。
シリコンのそれをずぶずぶとはめられて、いつもするようにかき回される。土方は意図して、力を抜くように努めた。腹の中をかき回される感覚だけはある。が、相変わらず土方のペニスは全く何にも反応していなかったし、息が上がるのも腹部を在らぬ方法で圧迫されたがゆえの苦しさのためだ。
「すげー、えろい光景なんだけど」
どピンクのディルドが土方の尻をぐっぷりと広げて出入りしている様子は銀時にはだいぶくるもの、だったらしい。息が荒くなっている。ナカ見えてっし、と言って穴のふちをいじられて、ひくりとこそばゆさに大きく広げた脚がふるえる。張り型はいつも入れられる銀時のものよりも少しだけ長い、みたい? で、触れられた覚えのない場所にずぶずぶと先端が刺さってくる感触がある。息苦しさに背をのけぞらせると浮いた腰の下に手を入れられて、ぎゅっと抱き寄せられた。その背に腕を回して、まるで恋人どうしみたいなキスをする。これだけでも感じられればいいのに、なんて思ってしまう自分の女々しさに、いっそめまいがする。そのままやわらかく背中をソファに押しつけられて、もう一度キスをされる。

銀時はくったりと元気のない土方のペニスもあれこれいじくり回してくれたけど、結局だめだったのでもう尻の穴をいじめることの方に専念することにしたみたいだ。入るぎりぎりまでねじ込んできたそれを勢いよく引っこ抜いて、ぱくりと閉じきれずにいるそこに、今度は指と一緒にローターが入ってきた。ぶるぶるという振動に口のところをふるわせられて、またん、と声が漏れる。そこに銀時のものが入ってくる。
「あ、」
奥まで入れられた瞬間、気持ちよかったりはしないがどうしてだかほっとした。やっぱり、こっちの方がいい、そう口に出せはしないが、でもどうしてもそう思ってしまった。ひとりでそう考えて赤面した拍子に奥まで入ってきていた銀時をきゅっと締め付けてしまって、自分の上で銀時がひくく喉を鳴らす。男くさい顔をして眉をよせている、その顔が好きだなぞと思う──いつもならそんな余裕土方にもかけらもないから、まじまじと相手を見るなんてことはできない。ハメどりしてーって言う理由、解らんでもない。もぞもぞとそんなことまで考えてしまう。


一拍を置いてから、銀時は腰を動かしはじめた。ぐち、ぐち、とローションが音を立てる。土方は銀時が気持ちいいのか解らなくてわざと今度は腹に力を入れた。そうしたら「うわ」と声がして、腹の中に何かをぶちまけられた感覚が走る。何がって、ゴムつけてなかったから銀時のだ。えっ。
「……仕方ねーだろ、ローターすげー振動くるしオメーは締め付けてくるし!」
あとオメー、見過ぎだよ! そう早口で言うなり体を反転させられて、うつぶせに体を押しつけられる。それから、またぞろ固くなった銀時のが入ってきた。あ、 まだ入れられたままのローターがごりごりと腹の内側に押しつけられてなんか、変なところが震えるような違和感だけが走った。腰だけを抱え上げられる体勢でまたずぶずぶと根本まで入れられる。いつもなら感じすぎるからいやだという体位なのに、やっぱり何も感じない。
「つーか、何も感じねえならさあ」
そう言って奥までペニスを入れたまま、ぐりぐりと奥をほじられる。何かと思ったら上からぎゅっと首を押さえられて、さすがの苦しさにげほ、っと喉から大きく空気が漏れた。
「や、っ…めろ! くるしい、」
言うとすぐに手が離れていく代わり、腰を密着させたままで背中に銀時が顔を寄せてきた。肩胛骨をあま噛みされたり、強く吸われたりする。銀時の手は汗ばんで熱っぽくなっているのに、土方の肌はいつも通り、平常のひやりとしたままだ。なんだかそれが、自分のことなのに少しいやだった──さっきみたいに両腕が回ってきて、体を抱き起こされる。
「おめーとエッチしてーよ、ひじかた、…」
そう切なげな声で言われて、なんだか思いもしないところがきゅんとしてしまう。今してるだろ、と軽口を叩いてもよかったが、どうにもそういう気分にはなれなかった。指が絡んできて、水かきのところをこじりまわすように指が触れてくる。くそ、と言いつつ銀時が肩に歯を立てて、それからまた思い出したように腰を使い出した。





結局、そのあと銀時はそのままの体勢で一回、もう一度土方をうつぶせにさせて一回、した。そのあとは狭いふとんの中でくっついて寝て、土方の非番は昨日の一日だけだったので、早朝のうちに屯所に戻ることにしていた。何か言いたげな顔をしつつ、見送りに出てきてくれた銀時にじゃあな、とだけ挨拶をして、階段を下りた。出来るだけ足音を控えめにするのはここから帰るときの習慣みたいなものだ。何だか口にもにょにょ、とした変な感覚があるような気がして、鼻を鳴らしてみる。まさかと思うがブタクサか何かの花粉症か? もしそうだったら最悪だが。
早朝、まだ人通りのまばらなかぶき町を人の波に逆流するようにして屯所へのそう長くもない道のりを歩く。と、

胸に触れてくる何かの感触があった。? 虫でも入ったか、と思った矢先に、今度は最初に感じたのと逆側に何か、生暖かい感触がある。ちゅう、と吸われて脚が止まる。
えっ。思っている間に今度はぎゅっと引っ張られた。思わず脚が止まる。何だ、これ。
「ふっ、」
左右の差が付かないように気を遣ったみたいに、両方の胸を交互にいじられる。指と舌先と、シンクロするみたいに同時にいじられて、歯を立てられる代わりにもう片方には爪をひっかけるように触られて。無視して歩き続けようとしてもむりだった。
「あ!」
あちこちなめ回されたり触られたのでもだいぶきていたが、とうとう股間をぎゅっと握られたらもうだめだった。こらえきれずに声が漏れてしまって、土方は慌てて周りを見渡す。早朝なのだけが運が良かったといえばそうなのか、これは銀時の手管だった、しかも昨日の晩、さんざんにされたことだ。あわてて路地裏の積まれたビール箱の裏に隠れながら、胸をいじられただけで熱を持っていたペニスをいじくってくる銀時の手の記憶に息が荒くなる。ふっ、ふ、と口を押さえた指の間からかみ殺しきれないあえぎの混じった息が漏れていく。根本から先まで、何かを絞り出すような強さで筒の形にした手が固く熱を持ったペニスをしごいて、いたずらをするように尿道をひっかいていく。調子をあわせるように体中を這う手のひらと口の感触。必死で口を押さえた指の間から、どんどん殺せなくなる吐息混じりの声が漏れてしまう。う、ん、ン──
「あっ、!」

ぬめりを伴った何かの感触がひたと穴に触れてきた瞬間、土方はうずくまっていた体をびくん! と跳ねさせてしまった。のけぞらせた頭と膝が派手に壁とビール箱にぶつかって、がたがたと音がするのに慌てるが、それどころじゃない。違和感、それだけならいいのに、そこに何かを──とりわけ別のおとこのものを──くわえることを覚えてしまった土方の穴が、ただ入れられただけの指の感触だけでひくりと震えるのが解ってしまった。奥をいじられるのももう覚えてしまっていて、そこで気持ちよくなるやり方さえ、言われなくても解ってしまっている。
「あ、は、っ…」
昨日の銀時のしたことを思いだして脚が震えた。指の記憶、そう呼ぶのがいちばん正しい気がするのだが、それはいつもよりも性急で、慣れたやり方よりも少しだけ乱暴だった。土方が無反応だったものだから、銀時もそこをびちゃびちゃにしはしたけれども、いつもよりもそこを「いじめる」ような度合いを強くした手つきでせめたような覚えがある。指で中をほじくり回されて、中の感触を確かめているらしい、広げられた感覚に喉がひっと鳴った。それから、
「うあ、あ──ッ、!」
知らない間に大きく脚を開いてしまっていたのに土方は気づかない。脚の間に突然、一気に奥まで刺さってきたものは今まで知らなかったかたちをしていた。はっ、はっ、と走り疲れたいぬのように漏れる息に「ああ」という愉悦の声も混じっていることに気づいて、羞恥に体がやけそうだった。深々と刺さっているそれに腹の中をこすられるたび、びくびくと体が跳ねる。一気に引き抜かれて、また突き刺される。
「は、ァ、ひっ、あっ、ああァ、あっ、あぅ」
息苦しさと気持ちよさを逃がそうとして息を吐くたびに、とんでもない声が口から漏れてしまう。そこに男をくわえ込む時のように大きく開いた足先が宙を掻いて、何かを必死にこらえるか、逃げだそうとするように指がきゅっきゅと丸くなっている。卑猥な動きだ、自分の足の指のしたそれを見て、土方はなぜか呆然とそんなことを思った。「っ、あ!」
すげー眺め、と昨晩銀時が揶揄したとおり、そこはすごいことになっていただろう。今見えたなら。こわくて土方はそこに目をやれなかった。ぱっくりとくちを大きく開いて、ねじ込まれたディルドを奥までくわえ込んでいるようすが、へたをするとそれにいじめられた腹の中がはしたなくひくひくと震えて快感をむさぼるようすすら、銀時の目の前にさらけ出されていたのかと思うと、背骨の奥がいやらしい炎で溶けてしまいそうになる。

──なのに、ここには土方ひとりだ。朝方の、冷えた空気をぜいぜいと肺まで深く吸い込みながら、こうしてとんでもない声をあげる土方を見ているものは誰もいない。土方ひとりしか、いない。
「んっ、う、う…」
くそ、と歯がみした拍子になぜかその事実に泣きそうになっている自分に気づいていっそがく然とした。見てもらいたいのか、この状況を? 銀時のものでもないもので責め立てられて気持ちが良くなってしまっているこんなようすを? 今までこういうものを使うのはいやだと、拒んでいたのは自分だったはずなのに。くそ、万事屋のバカヤロー、てめーが、セックスはひとりでするもんじゃねえって言ったくせに。 土方がどう胸の内であれこれ叫んだとしても状況は変わらなかった。いやなにおいのする朝方の路地裏でひとり、恋人としたむなしいセックスの記憶にひとり苦しめられているのだ。どれだけ悔しさに歯がみしても何も変わらないし、尻の穴を責め立てる太いディルドがそこをぐちゃぐちゃに引っかき回しているのも変化なしだ。
「あっ、あ」
そんなもので射精させられてたまるものかと必死にこらえた土方の努力もむなしく、うしろをほじられただけで一度、土方は達してしまっていた。下着を着けたまま吐きだしてしまったせいで、身じろぎするたびにぐじゅぐじゅと蒸れたそこが気持ちわるくてたまらない。ひくん、ひくん、と喉が震えて、涙が目尻からしたたり落ちていく感触を呆然と感じているしかない──銀時がここにいたなら、多分そんなことは許さなかっただろうが──。いった余韻にひくつくそこから、ずぶずぶと固い感触が出て行く。その、先のことを思い出して土方は後じさった、が、記憶は残酷だった。
「ッ、──!」
ひくついて敏感になっている入り口のところを、ことさらいじめるようにローターでぐるりとかき回されて、また頭がのけぞった。今度こそビール箱ががたがたと崩れて、人通りがあったなら確実にばれてしまっただろう──はっとした土方が体をすくめて、逃げようとした、その時だった。


「あの、大丈夫ですか」
──と、うしろから声がかかった。




20121010