少年が身じろぎすると、さらりと肩から黒髪が流れ、滑り落ちた。あまりにもつややかで、その動きすらが淫猥であった──銀時はごくりと、慎重に息を呑む。そして少し離れた場所に座っている彼のことを盗みみる。自分の見ている相手が「おとこ」だと、なぜ知っているのかは銀時にも解らない。だが、知っていた。
なりは女のようだ。うす衣一枚、まだ柔らかそうだが、細くうつくしい脚が大きく割れたその裾から覗いている。まず先にそこへ目が行き、まるでこちらを試すかのような白い肌に頭がぐらぐらと揺れた。あまりにも艶やかで、いっそぬるりとして見える黒髪が、傾いた体をいやらしい男の目からかばうように落ちかかってくる。その髪をひとふさ、少年の手が耳にかける。
なぜか、知っていると思った。ほくろのひとつもないうすい胸。ゆるんだ帯を、とる第三者の腕がある。思わずぎゅっと手を握るが、その指に力が入らないことに気づいて、ここが夢の中だと気づいた──はっ、 漏れた息は熱い。高ぶっている、それはどうしようもなく、いかんともしがたい事実だった。いっそ困惑するほど、銀時は眼前に広がる光景に釘付けになっていた。
少年の帯をほどかせた手が、次いでゆるりと羽織っただけになったうす衣をはだけさせた。眩しく思えるほど白い、まるで内側から輝いてでもいるかのような少年期特有のやわらかそうな肌があらわになって、いっそ目を打つかのようだった。ごくりと、今度こそ飲み込む唾が大きな音をたてた。さっきはなんとか、殺せたのに。 
そんな銀時の煩悶などすべて無視して、目の前の「なにか」は続いていく。帯をほどかせた手、その腕はどうやら、彼よりもずいぶんとたくましい、おそらくは大人の腕のようだった。持ち主は男であろう。何かを彼が小さく笑わせた。ゆっくりと押し倒された体に、誰かの体が覆い被さる。背中にひっかいたような傷があった。そこに、少年のまだ細い手がかかる。まるでその傷をなぞるみたいに、 爪痕とおぼしきそれは、少年の指がなぞるあとにそっくりだ。べったりとつぶれて情緒もなにもない、あまりきれいとは言えないふとんの上に、少年の黒髪がさらりと広がる光景が、今まで見た何よりもいやらしく思えた。
抱き合う光景は男同士のものだろうに、なぜだか一切の抵抗を感じない。むしろ明るい日の中、まるで秘すようすもなくむつみ合っている彼らがうらやましいような気持ちすらあった。ぎゅっと握った手の感覚がある──目覚めが近いのか、銀時は思った。うらやましくもあり、ほっとするような心持ちもある。このまま彼らのようすを第三者として見ているだけでは、なんだか落ち着かない事態に陥ってしまいそうだったからだった。吐いた息がいっそう熱い、あっ、 少年が小さく息とも、あえぎともつかない声を出した。
その時、少年を抱きしめている男が、ゆっくりと振り返り、こちらを見た。目があうなりにたりと笑われて息を呑む。その赤い眼、柔らかそうな銀色の髪に、見覚えがある。あれは。



20121104

ポニ方くんが書きたかっただけ…