新しい年を迎えたばかりの神社の境内は人があふれかえっていて、およそ深夜とは思えないくらいだった。親子連れにカップル、それぞれ白い息を吐きつつも、新しい年への期待にか顔をほころばせている。
「みんな若ぇなー」
そういう銀時も襟巻きをして、こんなところにいるんだから同じ穴の狢だった。さっきお登勢のところで年越しそばとおせちをさんざ食べさせてもらって腹がくちくなっているはずの神楽は、リンゴ飴の屋台をみつけて「あれ食べたいアル!」なんて元気に声をあげている。
「おー、あとでな」
境内の左右には綿あめにリンゴ飴、焼きそばにたこ焼き、フランクフルトと、夏祭りの夜店と変わらない店構えがずらっと並んでいて、寒さに震える参拝客の目をさそっている。とはいえ、銀時としてはこのあとお参りが済んだら無料で配られている甘酒でももらって、帰りたいくらいなのだが──寒いのは好きじゃないしそばもおせちをたらふく食べたあとだ──。ふ、と横を見ると、なんだか闇にとけ込みそうな誰かと目が合ったような気がした。あれ。
一度目は気のせいのような気がしたが、二度目、と続くとやっぱり気のせいなはずもない。気配を感じてそっちを見ると、さっとその視線が逃げていく。そんなことをするようなやつ、銀時が知っている限りじゃひとりくらいしか思い当たらない。あのストーカーくのいちだったら我慢しきれずに飛び出してきているはずだし。

「あ、やっぱ土方じゃん」
のろのろと進む参拝客の列から「トイレ」と言って抜け出して、ほとんど闇雲にその暗いところへ手を突っ込んだら、案の定だった。ばつが悪そうな顔をした、土方、 ここ二週間くらい年末の慌ただしさにかまけて会えていなくて、五分でもいいから会いたいな〜、なんてクリスマスにおねだりしてみたけどだめだった相手だ。分厚いジャケット越しに腕を撫でてみたりしてみたいけど、いかんせん野外だし、土方はそういうことが嫌いだから、ただ自分の手にぎゅっと力を込めることだけしてみた。「何してんの」
「……仕事」
あくまで相手はそっけない。いつものことだからこれについてごちゃごちゃ言うつもりはないが──銀時だって、解っていてわざわざちょっと出てこないとならないここらで一番おおきな神社まで来たんだから──。人でごったがえすこの場所で物騒なことをしでかすやつがいないとは限らないので、特に参拝客が増えるところには人をさいて警備体制をしく予定だとかなんとか、そういえば年の瀬に言われた気がする。電話で。会うこともかなわなかった、俺つきあってんのに。
「あけおめ、あとことよろ」
「若ぶってんじゃねーよオッサンのくせに」
吐き捨てるように言うが、土方の方だって腕をふりほどく気配はない──むしろもうちょっと暗い方へ引く仕草を見せたような気がして(きっと気のせいだろうが)そわっとしてしまう。ここでキスくらいは許されるだろうか、ていうか、許してほしいんだけど。
勢いに任せて顔を近づけたら土方の目がぱっと銀時を射抜いて、口同士がくっつく直前で待てをさせられた。互いの息の熱さすら解る距離だ。っていうか、もうそんなのいやってほど、知ってるけど──
「……何しようとしてやがる」
「何って」
野暮なこと言うなよ、というつもりだったのに、その前に後ろで複数人、ざくざくと砂利を蹴飛ばして歩いていく足音が聞こえたので声が止まった。こっちを目指して来ていたわけじゃないみたいで、すぐに通り過ぎていってしまう。一瞬固まったふたりだったが、同時にふっと力を抜いた。
「……新年のチュー、した?」
「あ? だれと」
「なんかそういうの好きそうじゃん、ゴリラとか」
「近藤さんな。んだよ、それ」
「知らねーの副長さん。あれだよ、あけおめの瞬間に電気消して、近場にいたやつにチューしていいっていう無礼講のやつ」
「知らねーし、やってねーよ」
ふ、と土方が吐いた息が自分の頬にぶつかってきて、銀時は腰骨のあたりがそわっとしたのを感じる。そんなの、この狭い暗闇の中に彼を押し込んでからずっとだけど。もうちょっと明るければ互いの表情も見えたりして、もっとそわそわしていたのかもしれないけど、運が良いことに本当にまっくらだった。輪郭は解るし、土方のつよい目のひかりもわかるが。もちろん、何がどこにあるのかも。
「土方くんの今年初チュー、もらっていい?」
土方はイエスとのノーとも応えなかった。何かを言うより先に、さっと銀時のうなじをつかんで、ぎゅっと少しかさついた感触が口にぶつかってきた──そしてすぐに離れて、こう言った。「一個目だけでいいのか?」
その挑発するようなひびきに銀時はにやりと笑って、もう一度そのやわいにくを食み、舐めた。



明けましてきみにおめでと



20130101
あけましておめでとうございます\(^o^)/今年もぎんひじ!大好き!!