旦那が迎えに行くんで、そう沖田に言われた土方はげっと顔をゆがめた。でも「わかった」と返事をするしかない。嫌なわけじゃないんだけど。
土方のお誕生日を祝ってくれると言われて、いつもなら近藤や沖田、山崎やお妙というメンツの中にどうしてか銀時が混じっているのに気づいたとき、土方はいやではないのに、ちょっとえっ、となってしまっていた。なんていうか、苦手、でもないけど、隣にいると緊張してしまう。


銀時はクラスの中でもわりと、否、かなり目立つたぐいの男子だ。もてるし、わかりやすくイケメンっていうタイプではないけど、でもかっこいい。運動も出来るし、剣道部のエースだ。勉強はわりと、わりと、みたいだけど。
土方と銀時は家が近所で、昔はぎんちゃんてんちゃんと呼び合うような仲良しだった。けど、中学に上がるくらいから、女子が男子を、男子が女子を意識するくらいからあんまり話をしなくなって、土方は「坂田くん」と銀時のことを呼ぶし、銀時が──土方のことをなんて呼ぶのか解らないけど、とにかく疎遠になってしまっていた。
ご近所だからだろうけど。そう思って携帯を閉じて、土方は階段をとことこと降りる。それから、自分で結ったお下げの先に結んであるころっとしたあめ玉の形をしたゴムがゆがんでしまっていたのに気づいてちょっと直す。それから、前髪。そわそわしていたら、ぴんぽんとドアベルが鳴った。
「……呼びに来た」
銀時の方も気まずそうに言うので、土方はどうしてか、謝りたくなってしまった。きっと来たくなんかなかっただろうに、沖田にでも脅されて、なんか言われたんだろう、あの調子で。沖田は人当たりがよくて顔もかわいいので人気があるが、その本性を見せて差しつかえなしと思った相手には遠慮がない。それは銀時にも、土方にもそうだ。
「……なんか、ごめん」
会場はいちばん広いからという理由で近藤の家だったので、ふたりで歩く途中、土方はぽつ、と謝りの言葉を口にした。土方は、久しぶりに会えて嬉しいな、なんて思ったりしてしまうけど、でも銀時は違うだろう。ふたりきりになるのなんてもう何年ぶりかもわからない。どう振る舞えばいいのかわからないし、何を話したらいいのかもわからない。土方なんて、Tシャツにパーカーなんてラフな格好をしているだけの銀時がかっこよくても、それを素直に褒めることもできないし、隣に並ぶのもできない、ふとっちょでぶきっちょな女の子だ。

と思ったら、ふと銀時がこっちに向き直ってきて、ぐいと何かを押しつけてきた。えっ。
「これ、」
「プレゼント、」
他のやつの前に渡したかったから、そう口早に言われたけど、土方は頭がついていかない。うっかり銀ちゃん、なんて呼びそうになって、「ぎ」まで言葉が出そうになったところで、あわてて言葉をのむ。
気がついたら、いつの間にか銀時に手を繋がれていた。やさしい手だ。覚えがあって、どうしてだか泣きたくなる。昔からこうやって、どんくさい土方の手を引いて、銀時はどこにでも一緒につれていってくれた。土方が歩くペースに合わせて、たぶん、ずっと前からこの手のことが好きだった。きっと、言えないけど。


声に出せない



20130505
銀さんがお迎え行きたいですって言ってるんだけど樽ちゃんは知らなくて多分これ告白するまでにまだ半年ぐらいかかる でもそんな少女まんが銀樽ちゃんがSUKI