朝方送りだした土方のご機嫌が悪かったのは知っていたので、本当は顔を見て帰るだけのつもりだった。無人と決めつけている部屋の中におじゃましますと声をなげて、そっとのぞき込む。
銀時と土方はちょっと前からこっそりとお互いの家を行き来してたり、やらしいことを夜な夜なする仲だったりしていて、一概につきあってるとまでは言わなくても、とにかくそんな感じだ。
今まで言えたことがないのは自分が今までほとんど流されがごとく年を重ねてきてしまったせいだって思っていて、でも少なくとも、銀時は土方のことがすごく好きだ。
口に出したって気持ちが壊れたり消えてなくなることなんてないってことくらい、もういい年だから知っている。でももしかして、みたいなおびえがあるのは、うっかりこれが初恋だからだ、きっと。言わねーけど、恥ずかしくて。

それは、相手がどうとか男同士だからとか今までけんかばっかりだからだろっていう話の前に、自分が土方のことを好きだっていう事実で、前に進めないからだって思うからでもある、でも詳しいところは自分でもわからない。少なくとも、つきあっているって思ってなくて、セックスのリードをとるのは自分でも、銀時は彼をつきあわせていて、自分の片恋だって思ってる。──若くさくて苦いから、言えないけど。
とまれ。

部屋の中には、うっかり土方がいた。昨日の夜「明日朝早い」って言ってたのに、誕生日に会えなかったからって顔が見たくてついつい彼のことを引き留めて、強引に寝ることまではいかなかったけど、一回だけもう慣れてしまった手で彼のをいかせた。銀時のも一緒にいじってもらって、疲れて少しくまのういた目元でつらそうにあえぐ口元はわずかに割れ、痛々しくて、とてもうつくしかった。
健康的でいつもりりしい土方の顔を銀時は愛してやまないけれども、時にはこうして、自分しか見たことのないようにも思える、こんなひび割れた表情も、好きだ。そうは言ってもきっとそんなの銀時の妄想で、この屯所の連中はみんな、へとへとになった彼の姿なんか、日常茶飯事なんだろうけど。ちくしょう、

「んだよ、万事屋」
「…起きてたんだ」
障子に背を向けていた土方が肩越しに顔だけで振り返って、ため息混じりに呼んだ。その目がなんだか、ちょっと笑ってくれるのが、嬉しい。じわりと何かが胸の中で広がるのを感じて、銀時は息を噛んで、畳の目を数えるように視線を伏せる。いっそ、ここで時間が止まればいいのに──柄じゃないけど。



20130505