よく晴れていたので、よし今日は団子屋に行こう、と意気込んで町を歩いていたところだった。晴れているだけじゃない、風もあたたかくて、気持ちがいい。
万事屋の子どもたちふたりは今日はお妙についてどこか出かけるとかで留守にしている。要するに、銀時はひとりで暇なのだった。そして昨日パチンコに勝ったので、ちょっと小金がある。
と。
「おや。旦那じゃねえですかい」
先にのれんをくぐって出てきたものがある。というか、沖田だが。手にはいつものように団子がある。ちょっと違うのは、脇に赤い花を抱えていることだ。
「沖田くん、今日もさぼり」
ここで会うのはわりといつものことなので、銀時も片手をあげて答えた。「土方の野郎がしつこくて」みたいな事が返事があるかと思いきや、
「総悟、お前先行くんじゃねえよ」
横から土方が現れたので、銀時は面食らった。土方の方もマズイ、とでもいいたげな顔をしている。
だって、団子屋だ。銀時と土方はこっそり夜会ったりするような関係で、っていうかぶっちゃけるとつきあっている。でも土方は甘いものがきらいで、銀時が何度頼んでも一緒に団子を食べてくれたことなんかない。マヨかけていいから、と言ってもだめだ。「どうせテメーはかけてもいいっつってもいざかけるとバカにしやがんだろ」ととりつく島もない。なのに。

「すいやせん、若者なんで」
そう言いながら沖田は何をするかと思いきや、持っていた団子の一本におもむろにマヨネーズをかけて、土方に差し出した。土方はちょっと困惑したように顔をしかめたが、黙って受け入れる。それも、口を開けることによって。いわゆる「あーん」だ。

「え、何してんの」
銀時の疑問は当然だった。だって、こんな往来でふたり何してんだ。しかもおいしいですかいって訊いてんじゃねーよ沖田コノヤロー、しかも土方てめーも何「まあな」とかもごもごしながら答えてんだ。羨ましい、……くないけど別にそんなん、全然!
「だって、母の日ですからね」
当たり前みたいに言って、土方が団子を咀嚼し終わるのを待ってやり、沖田は小脇に抱えていた赤い花をうやうやしく土方にむけて差し出した。あっ、(察し)みたいな。カーネーションだった。
そのまま、ふたりは心なしかいつもよりも穏やかに、呆然としている銀時を置いて、いってしまった。正直何よりこたえたのは、差し出された花に土方が、まんざらでもないと言いたげな顔をしていたことだった。

「……俺もなんか花でも買ってくかな…」
渡したい相手はもちろん土方ではなくて、母親でもない相手にだけど。急に渡したらまた「多分明日は雪でも降るんじゃないかい、似合わないことすんじゃないよ」とかなんとか言われそうだけど、たまにはこんな日に、素直になってもいいかもしれない、なんて思ったりしたのだった。



20130512 おかあさんの日!